8/25 『The cove』とドキュメンタリについて
2009.08.26 Wed
夕方のニュースで珍しく興味深い特集を観た。
今年のサンダンス映画祭で観客賞を穫った『The cove』(ルイ・シホヨス監督)。これはイルカを食用などの理由で捕獲(イルカ漁)している地域に潜入し、主に盗撮により許可を得ずに撮られた映像で製作されたドキュメンタリーだそうだ(ちなみに cove とは日本語で「入り江」の意)。制作者は「イルカの捕獲方法に、動物愛護の観点から大変問題があると考え、映画を作成した」とBBCのインタビューで答たそうだ。
ここまではなんてことないニュースなのだけれど、驚いたのは舞台が日本の和歌山県・太地町という町だったということだ。
日本ではまだほとんど知られていない映画だけれど、サンダンスで賞を獲得したことにより英語圏での反響はかなり大きいらしく、現実問題としてこんな影響も出てきた。
豪都市がイルカ漁に反対 和歌山・太地町との姉妹都市停止 ーーJ-castニュース
この一連のニュースを観て、まっさきに思い出したのが『靖国』(08年)と『ダーウィンの悪夢』(04年)だ。僕は残念ながら『靖国』の本編は観ていないので何とも言えないが、『ダーウィンの悪夢』でも「貧困国の現状を伝える」という大義名分(というと言葉は悪いけれど)のもとに、現地の現状を映画的に劇的になるように恣意的な編集・撮影がなされ、事実がねじ曲げて伝えられているとして多くの関係者が非難した。
この和歌山県太地町でイルカを捕獲しているのも、増えすぎたイルカの繁殖を抑えるためという理由があるらしいし、ずっと昔から続いている文化だそうだ。それに監督が言う「動物保護の観点」に問題があるのだとしたら、ニワトリを首つりにしてコンベアで流すのは問題ないのか? ガチョウをパンパンに太らせてフォアグラを取るのは問題ないのか? と考えずにはいられない。
ドキュメンタリーはこういう難しさがつきまとう。たとえ映画として素晴らしい作品を撮ったとしても、ドキュメンタリーである限り観客はそれを「事実」として捉え、その内容に不満を覚える人が必ず現れる。
書籍や番組のタイトルにもなった『ドキュメンタリーは嘘をつく』という森達也の有名な言葉があるけれど、これは要約すると「ドキュメンタリーは絶対的な真理を映すわけではなく、人が撮り人が編集したものである以上は人の意思が入り込む。監督が見せたい真実が映される」というようなこと(だったと思う)のだけれど、残念ながら一般の人にそこまでの考えは浸透していないだろう。
* * * * *
物事にはいろんな側面があって、『ダーウィンの悪夢』の監督が多少事実をねじ曲げていたとしても「途上国の現状を伝える」という意思は間違っていないはずだし、あの映画をきっかけにあの問題が多くの人に知れ渡ったことは事実なはずだ。同様に「残酷なイルカ捕獲の問題、水銀が含まれるイルカが食用とされている危険を知らしめたい」という理由も全然間違ってはいないと思う。それを多くの人に届ける媒体として映画を選んだことも(若干の違和感はあるけれど)理解できなくはない。映画には普通のニュースや雑誌記事とは比べ物にならないほどに遠くに飛び、広く浸透させることが出来るメディアだ。(穿ったの見方かもしれないが、監督の名前を世界中に広く宣伝することもできる。)
ただ、映画っていうのはとても一方的なメディアで、監督の意見だけが一方的に観客に伝えられるメディアでもある。もちろん普通のテレビニュースや新聞も基本的にはそうなんだけど、テレビやニュースは断続的に毎日続くものだし、なにか間違いがあった場合や反対意見が出た場合、後々にそれらを後追いとして報じることもできる。でも、映画にはそれがない。メディアとして使うには、映画はとても一方的であり、しかも基本的にはすごく閉じている。
僕は映画が好きだし、ドキュメンタリーも好き。だからこそ、ちょっと考えさせられるニュースだ。日本公開されたら観よう。
それにしても、手短な日記を書くブログのはずなのに、最近記事が長くなりがちだな。
『The cove』…公式サイト(英語)
・以下はこの問題について書いているブログ記事
シネマトゥデイによる監督インタビュー
やじうまUSAウォッチ 町山智浩
米映画批評
イルカ虐殺ドキュメンタリー"The Cove"・サンダンス映画祭受賞…感じない男ブログ
今年のサンダンス映画祭で観客賞を穫った『The cove』(ルイ・シホヨス監督)。これはイルカを食用などの理由で捕獲(イルカ漁)している地域に潜入し、主に盗撮により許可を得ずに撮られた映像で製作されたドキュメンタリーだそうだ(ちなみに cove とは日本語で「入り江」の意)。制作者は「イルカの捕獲方法に、動物愛護の観点から大変問題があると考え、映画を作成した」とBBCのインタビューで答たそうだ。
ここまではなんてことないニュースなのだけれど、驚いたのは舞台が日本の和歌山県・太地町という町だったということだ。
日本ではまだほとんど知られていない映画だけれど、サンダンスで賞を獲得したことにより英語圏での反響はかなり大きいらしく、現実問題としてこんな影響も出てきた。
豪都市がイルカ漁に反対 和歌山・太地町との姉妹都市停止 ーーJ-castニュース
この一連のニュースを観て、まっさきに思い出したのが『靖国』(08年)と『ダーウィンの悪夢』(04年)だ。僕は残念ながら『靖国』の本編は観ていないので何とも言えないが、『ダーウィンの悪夢』でも「貧困国の現状を伝える」という大義名分(というと言葉は悪いけれど)のもとに、現地の現状を映画的に劇的になるように恣意的な編集・撮影がなされ、事実がねじ曲げて伝えられているとして多くの関係者が非難した。
この和歌山県太地町でイルカを捕獲しているのも、増えすぎたイルカの繁殖を抑えるためという理由があるらしいし、ずっと昔から続いている文化だそうだ。それに監督が言う「動物保護の観点」に問題があるのだとしたら、ニワトリを首つりにしてコンベアで流すのは問題ないのか? ガチョウをパンパンに太らせてフォアグラを取るのは問題ないのか? と考えずにはいられない。
ドキュメンタリーはこういう難しさがつきまとう。たとえ映画として素晴らしい作品を撮ったとしても、ドキュメンタリーである限り観客はそれを「事実」として捉え、その内容に不満を覚える人が必ず現れる。
書籍や番組のタイトルにもなった『ドキュメンタリーは嘘をつく』という森達也の有名な言葉があるけれど、これは要約すると「ドキュメンタリーは絶対的な真理を映すわけではなく、人が撮り人が編集したものである以上は人の意思が入り込む。監督が見せたい真実が映される」というようなこと(だったと思う)のだけれど、残念ながら一般の人にそこまでの考えは浸透していないだろう。
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物事にはいろんな側面があって、『ダーウィンの悪夢』の監督が多少事実をねじ曲げていたとしても「途上国の現状を伝える」という意思は間違っていないはずだし、あの映画をきっかけにあの問題が多くの人に知れ渡ったことは事実なはずだ。同様に「残酷なイルカ捕獲の問題、水銀が含まれるイルカが食用とされている危険を知らしめたい」という理由も全然間違ってはいないと思う。それを多くの人に届ける媒体として映画を選んだことも(若干の違和感はあるけれど)理解できなくはない。映画には普通のニュースや雑誌記事とは比べ物にならないほどに遠くに飛び、広く浸透させることが出来るメディアだ。(穿ったの見方かもしれないが、監督の名前を世界中に広く宣伝することもできる。)
ただ、映画っていうのはとても一方的なメディアで、監督の意見だけが一方的に観客に伝えられるメディアでもある。もちろん普通のテレビニュースや新聞も基本的にはそうなんだけど、テレビやニュースは断続的に毎日続くものだし、なにか間違いがあった場合や反対意見が出た場合、後々にそれらを後追いとして報じることもできる。でも、映画にはそれがない。メディアとして使うには、映画はとても一方的であり、しかも基本的にはすごく閉じている。
僕は映画が好きだし、ドキュメンタリーも好き。だからこそ、ちょっと考えさせられるニュースだ。日本公開されたら観よう。
それにしても、手短な日記を書くブログのはずなのに、最近記事が長くなりがちだな。
『The cove』…公式サイト(英語)
・以下はこの問題について書いているブログ記事
シネマトゥデイによる監督インタビュー
やじうまUSAウォッチ 町山智浩
米映画批評
イルカ虐殺ドキュメンタリー"The Cove"・サンダンス映画祭受賞…感じない男ブログ



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